2014年1月24日(金)小山

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前回の細道紀行から2ヶ月半。年が変わって2014年の1月である。8ヶ月前に東京を出発して東北を目指したはずなのに、まだ小山である。栃木県南部である。こりゃまずい。今年はペースを上げていくぞ!と新年の誓いを胸に、小山駅前まで車で到着。

そう、今回は電車ではなく高速道路でスタート地点まで来たのであった。歩く→東京に戻る→前回の続きからまた歩く…という方法も、そろそろ大変になってきた。なんとかせねばいかん。

それはそれとして、またいつものようにのらくら歩き出す。

この小山からは、元禄のスーパータッグ芭蕉&曽良のルートを外れて、国道50号線を東へ向かうことにした。JR水戸線に平行するように、水戸方面へ向かう道である。もちろん『奥の細道』どおり日光街道を北上してもよいのだけど、福島の沿岸部、いわゆる浜通りに行ってみたいと思ったのだ。

東日本大震災のあった2011年、7月に2回だけいわき市でボランティアを経験した。それが自分の震災ボランティア初体験だったのだけど。そのとき、被災した家の片付けなどをしたのが常磐線の久ノ浜駅、末続駅の近く。あの場所をもう一度訪れてみたい。そのためにはまず太平洋岸に出ないと行けない。

とはいえ、まずは目の前の道だ。小山駅前の目抜き通りを歩く。大きな交差点があり、さて、どっちに行けばいいのやらと思いつつウロウロしていたら、すぐ近くの洋品店のショーウィンドウに釘付けになってしまった。マネキンだ。しかもかなりの年代物らしい。目はパッチリ、まつ毛もバッチリ。鼻がちょっと欠けてる。こういうリアル指向のマネキンって、近頃とんとお目にかからなくなったよなあ。

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店内をのぞくと、おじさんがひとり、椅子にどっかと腰かけて新聞を広げてる。

「すみません、マネキンの写真、撮ってもいいですか?」

おそるおそる声をかけてみたら、快諾してくれた。

「マネキン? 40年くらい使ってるよ。奥にもう一体ある」

と言いながら、もう一体を運んで来てくれて、写真を撮りやすいように置いてくれる。もともと4体あったらしい。かつてマネキンはレンタルするものだったそうで、4体で月7万。それを最後は買い取ったのだけど、2体は学校に寄付したんだとか。

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「芸大だか何だかの女の子が、マネキンを絵に描きにきたこと もあるよ」

確かに、この年季の入ったマネキンは妙にそそられる。絵にしたくなるのもわかる気がする。店内を見回すと、ほかにも年代物らしきテレビやクーラーが置いてある。

「あのテレビはカラーテレビ第1号。二十数万したんだ。月給8000円の時代だよ」

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この店「オヤマ信販」が開店したのが昭和35年というから、まさに日本のカラー本放送開始の年だ。そりゃすごい。さてはおじさん、新しもの好きですな?

「こっちクーラーはGE。80万したね」

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年季の入った昭和家電がかなりご自慢の様子。おじさんかなりノって来たらしく、いつのまにか自分の生い立ちを語りはじめた。いわゆる「昔は俺もワルだった」って話なんだけど。

「とにかく喧嘩ばかりしてたね。売ったことはない、買うばっかりで。連れがカラまれたりしてね」

ボクサーを目指し、16歳のとき後楽園に行ってプロ試験を受けた。絶対に受かると思っていた。ところが別の部屋に呼ばれ、医者から「ボクシングをやめなさい」と告げられた。心臓肥大だから駄目だ、と。

「小さい時に川で潜りすぎたのがよくなかった。あんときは泣いたよね」

タバコに火をつけながら語るおじさん。こりゃ長くなりそうだ。

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その後、親に言われて自衛隊に入隊。2年ほどのち、21歳で大手アルミニウムメーカーに就職。

「21歳で人生始まったよ」

おじさん、実はかなりのアイデアマンだったらしい。そのアルミ会社の工場で、特許とれるアイデアを3つも考えた。ところが自分のアイデアがいつも上司の手柄にされてしまう。

「3回目にとうとう頭にきて、上司の家に殴り込みに行ったらクビになった。会社のクビ第一号だよ(笑)」

その「殴り込み」に行ったという話なんだけど、ちょっとマジ過ぎて全部は書けねえっす。他にもいわゆる武勇伝が出てくるわ出てくるわ。とにかくそれで工場勤めを辞め、そのあとに勤めたのがこの小山信販というわけ。さすがに今は温和な印象だけど…。たばこをくゆらす姿がやたらと様になっているのは、人生の厚みってヤツっすかねえ。濃厚なオヤジの濃厚な半生をたっぷり小一時間ほど聞いてしまった。

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今回の道行きは、のっけからかなりディープだ。

 

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